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アウトプットが大切なんですって奥さん

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私は一階にある受付に向かうため、階段をくだった。

執務室は四階にあるので軽い運動になる。
エレベーター?ないよそんなもの。

 

一階は受付と自販機だけ。

二階は応接間。何個もあるけど全部が埋まっているところは見たことがない。

三階は探偵たちのテリトリー。今この糸口探偵社に勤めている探偵は六人いるけど、あんまり喋ったことのない人もいる。

四階は社長の執務室と、社長の部屋。

ベランダには社長のプチ農園。

 

......社長は家と仕事場の往復が面倒だといって四階に住んでしまっている。

 

週末婚のが上手くいくんだよお、ボクみたいなタイプのはさあ。

 

なんて言っていたっけ。

でも社内の変なところといったら実はまだあっ

???「うぉっ......」

みつけ「わっ」

 

しまった、考え事しながら歩いていたせいでぶつかってしまった。

 

みつけ「すいません、ええと」

徳臣「......気を付けなね」

みつけ「......すみません」

 

そんな睨まなくても。

さっきぶつかってしまった人は徳臣透(とくおみ とおる)。


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今年からここに来た探偵さんだ。

今年からといっても前に他のところで勤めていたらしく、ピカピカの新人ってわけでもない。

無愛想ってほどでもないんだけど、微妙に近寄りがたいというか。

全員のぶんのお茶を淹れるとき、彼には出さない。

なんでも自分的に丁度いい分量やらなんやらあるそうで、人にやってもらうより自分でやった方が良いらしいのだ。

まあ助かるっちゃ助かるけど、二人で給湯室に並んでるときなんかは物凄く気まずい。

何も会話が起こらない給湯室ってなんだ?

......とかく、そういう感じの人なのだ。

 

ああ、説明していたら一階に着いた。

コンコン。

 

流石さん「どうぞ」

みつけ「失礼します。これ、社長から流石さんにだそうです」

流石さん「ありがとう」


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うーーん。また髪色が変わっている。

くるくるは健在だけど、季節ごとに色を変えてるのはすごいなあ。

流石、流石さんだ。

 

流石さん「さっき依頼の方が来てね......この資料は応対に必要なものだったの。私の印鑑を押しておいたから、202によろしく」

みつけ「わかりましたー」

 

探偵社でアルバイトと決まったときはこう...スリルに溢れたものだとばかり思っていた。

けど実際はお茶汲みと、資料整理と、ちょっとした事務作業だけ。

実態はこんなもんである。

たまに浮気調査とかの資料が覗けて面白かったりするけど(流石さんには叱られる)、基本的には失せ物探しやらなんやらがメインだ。

二階の応接間......202へ急ぐ。

今日は誰が担当しているのだろうか。

コンコン。

 

???「はい」

みつけ「失礼します」

 

この声は......。


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田ノ中「やあ、みつけちゃん。資料とお茶かな?どうもありがとう」

???「......」

 

田ノ中さんか......。

彼の名前は田ノ中今真。

顔はかっこいいし人当たりもいい。

けれどメチャクチャに胡散臭い。

今日もよくわからないバッタだかコオロギみたいな色の服を着ている。

普通の人が着たら確実に食われるそれを難なく飼い慣らしている辺り、やはり......あれなのだろう。

この人が解決した案件はダントツに少ない。

というより、誰かに回してしまうのだ。

私が勤める前からいるらしいが、なんでクビになってないのかわからないレベルで他の探偵に押し付けている。

......わかんない人である。

そんな彼の目の前には若めの女の子。

この人が今日の依頼者だろう。

私と同い年くらいに見えるけど、探偵に依頼なんて珍しいな。

 

私は資料を渡してから、二人にお茶を出した。


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 (資料がなくなった)

 

みつけ「では、これで失礼します」

???「ま......待ってください!」

みつけ「えっ?......なんでしょう」

 

依頼者はどこかすがるような目で私を見ている。

???「あの......すいません、仕事の邪魔でなかったらここにいてもらえませんか?その、こういうところ来るのはじめてで......」

みつけ「あ~っと......」

 

確かに、本物の探偵なんて人生で出会う体験普通は無いだろう。

しかも目の前にいるのは底抜けにうさんくさい笑みを浮かべた田ノ中さんだ。

応接間に入ってからべらべら今朝あった猫のはなしとかされててもおかしくない。

しかしながら当然仕事は残っている。

基本的に秘密厳守がポリシーの場所なのに、一介のアルバイトがいていいのだろうか。

 

私は迷って、目を見た。

 

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