斜め上から目線

アウトプットが大切なんですって奥さん

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私は迷って、田ノ中さんの目を見た。
察して......!
後で怒られるのは私と貴方なんですよ......!
そのへらへら胡散臭い笑みを今すぐやめて、依頼人を説得するか流石さんを説得するかしてくださいよ......!


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田ノ中「なあに、みつけちゃん?俺の権力は流石さんの数億分の一だけど、みつけちゃんは流石さんに気に入られてるからね。ここはみつけちゃん次第だよ。自由にするといい。真面目だなあ全く。いやいや、いいことだと思うよ。探偵社のアルバイトさんはそうでないとね。なるほど確かにプライバシーの保護は大事だと思うけれど、ここは依頼人......伊沢さんの頼みだからね。私は全く構いませんよ、伊沢さん。そういうことだ。仕事に差し支えがあるならこのままゲラウェイするといい。まあ、伊沢さんの話を聴いてから決めるっていうのもありだと思うけれどね」

......。
ちょっと見ただけでよくもまあこんなべらべらと。
簡潔にものを言えないのだろうか。
もういいや、何かあったら全部この人のせいにしよう。

みつけ「......わかりました。私でいいなら、同席させていただきます」
伊沢「ありがとう、ございます......。すいません、お忙しいのに」
いいんです。あとの事務は隣でにやついてる人に任せます。

みつけ「あの、それで相談の方は」
伊沢「......はい。探偵さんに大まかなことを言っただけで。詳細は今から話すところでした」
ずいぶんといいタイミングで来てしまったみたいだ。
田ノ中「うんうん。確か、ご近所のお屋敷がどうのという話でしたね?伊沢凪さん......大学生ということですが、実家暮らしですか?それともお一人?ルームシェア?」
伊沢「あ、実家なんですけど......両親は二人とも出張族で、実質独り暮らしみたいなものです。今年に入って帰ってきたのも......二回くらいでしょうか」
田ノ中「ふうん」
伊沢「私たちが越してきたときには、隣の家はもう空き家でした。大きめの家で、門も古めかしかったので最初は誰かの別荘かと思ったくらいで。庭が荒れていたのですぐわかりましたけど」
そんな屋敷が隣にあったら怖いだろうな。
そっちがわの窓とか全部閉めてしまいそうだ。
伊沢「それで......7月くらいから、なにか物音が聞こえるなって思って。今年、すごく暑いじゃないですか。だから大学から帰るたびに、使ってない部屋の窓を網戸だけにするようにしたんですけど。寝る前には防犯のために閉めるでしょう。そしたら、その」
田ノ中「物音が聞こえたと」
伊沢「......はい。あ、最初は聞き間違いかと思ったんです。別の、公道の方角かなとかも考えました。でも、明らかに隣なんです。隣からなにか......あの、変ですよね。すいません、ちょっと整理できてなくて」
伊沢さんはぎゅっと力を込めて拳を膝に置いている。大きめのピアスが揺れていて、心の動揺がそのまま移ったかのようだった。
確かに混乱していてわかりづらいけれど、本当に怖がっているのはわかる。
でも......。
みつけ「あの、素人質問で申し訳ないんですけど、警察の方には......?」
聞くと、伊沢さんは真っ直ぐ私の方を見て。


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伊沢「信じてもらえなかったんです」
信じて、と訴えてくる。
伊沢「最初に音を聞いたのは七夕の日でした。人の声と、なにか......高めの、金属みたいな音。怖くなって、その日はすぐに窓を閉めちゃったから、わかりません。次の日は日曜だったから、私はずっと部屋で課題をしていて......。聞き間違いだと思っていたし、忘れたかったので」
田ノ中「聞き間違いだと思っていたし、忘れたかった......。そうですね、そんな怖い思いをされたのなら仕方のないことです。私だってそうしますよ。きっとここの三階から出られないまま一年を過ごすでしょう。でも貴方はそのまま忘れはしなかった。警察に行ったのはいつですか?」
伊沢「その翌週の......水曜の夜とかだったと思います。熱気がこもるのはよくないから、どうしたって外の音が聞こえる部屋にも行かなきゃいけなくて。人の声はしなかったんですけど、階段を下りるみたいな音は聞こえて。警察に相談したら調べますって言ってもらえたんですよ。次の日とかに何人か来てました。でもすぐに帰っちゃって......ダメだと思って、他のところを探してたんです」
7月11日に相談して、それから約一ヶ月が経ちかけている。もう8月だ。その間ずっと、この人は怯えていたのだろうか。
私は気になって、更に問いを重ねた。

 

 

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