斜め上から目線

アウトプットが大切なんですって奥さん

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田ノ中「これは······ああ、確かに。わからないな」

田ノ中さんはキッチンに明かりを向けたまま、なぜか申し訳なさそうな顔をして呟いた。

みつけ「田ノ中さん、何か見つけたんですか?」
田ノ中「こっちへ来ればわかるよ。いやわからないのかな。みつけちゃんはわかるべきなんだろうか。こんなところにあるなんて、俺も思っちゃいなかったからなあ。もっと奥にいると思ったんだよ」

私への返答というより、自分の考えをまとめるように田ノ中さんはがりがりと頭を掻く。
田ノ中さんの後ろから同じように懐中電灯を照らしキッチンを見ているが、正直彼が何を見つけたのか全くわからない。

みつけ「田ノ中さん、どこ見てるんですか?」
田ノ中「ああ、みつけちゃん。突き当たりだよ。冷蔵庫横のデッドスペースに、『今日』俺が探しに来たものがある」

邪魔なゴミ袋を足で軽く蹴りながら、田ノ中さんのところまで歩を進める。
言われた通りデッドスペースの陰に光を当てたが、そこにはただぽっかり開いた空間があるだけだった。

みつけ「何もないじゃないですか」
田ノ中「ふーん。まだ足りないものがあるんだな?それか忘れているのかな?何せもうすぐ一年経つからね」
みつけ「え?」

足りないもの?もうすぐ一年?この人は何をいっているんだ。というか、ユーレイとかが見える田ノ中さんにしかわからないものなんじゃないのか、その『何か』は。

みつけ「どういうことですか?」
田ノ中「どういうことかと問われれば、俺は思い出せとしか返せない。君が見たもの、見ていないもの、忘れたもの、忘れていないもの······。一つ一つ思い返してごらん」

なんだか奇妙な心地になってきた。なぜ私が重要になっているんだろう。ここへは謎の騒音の正体を確かめに来たのであって、しかも私がいるのはたまたまお茶汲みしていたからで。
私は関係のない人間のはずなのに。

田ノ中「自分は関係ない、と思っていそうだね」
みつけ「と、特殊能力ですか」
田ノ中「これは探偵の能力さ。確かに君は関係ない、謂わば偶然キャストと目があっただけの観客だった。けれど無理やり登壇させられてしまった以上、君はもう物語の住人になっているのさ。それがどうしようもなくとばっちりでもね。事故のようなものさ。俺だって依頼がなきゃここに来ていない。みつけちゃんも俺も、貧乏くじを引いたのさ」

相変わらず1が100で返ってくる人だ。
でも、なんとなく言いたいことは伝わってくる。
これだけ長い間二人で話していれば、否応なしに······。

長い、間?
自分が出したその言葉に、頭の奥がちかりと光った。

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