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アウトプットが大切なんですって奥さん

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なにはともあれ周囲をチェックだ。
開かれた扉の奥には暗闇が広がっている。
密室だったためかむっと重く熱い空気が少しずつ流れ込んできて、非常に気持ち悪い。
扉のガラスには蜘蛛の巣が張っており、ここが人を出迎える場所ではなくなっていたことがよくわかる。
外壁は煉瓦...風?だろうか。古ぼけていてよくわからない。

田ノ中「みつけちゃん?きょろきょろしてどうしたの」
みつけ「ああいえ......古いなあ、と思って」

そう言うと田ノ中さんはにっこり笑って先に扉の先へ入ってしまう。

田ノ中「怖くないよ!お守りも渡したろう?ほーらほらほら、みつけちゃん、怖くないよ~~」

ちょっとムカつくけど、実際二の足を踏んでいたのは事実だ。先陣を切ってくれたお陰で緊張も少しほぐれた。

みつけ「......ありがとうございます。ここ、電気通ってるんですかね......」

そう言いながら私は玄関を潜ろうとする。

かさ。

足がなにかを踏んだ。

みつけ「え......?」

さっきまでは無かった、ような気がする。
いいや、絶対に無かった。
こんな......紙切れが落ちていたら、絶対に気づくはずだ。

(誰かのメモ を手にいれた)

メモを拾い上げると、咄嗟に中身が目に入る。

『ひ さ し ぶ り』

みつけ「............」
田ノ中「みつけちゃん?その手に持っているものは......ちょっと貸してみたまえ、はやく」

放心状態に陥っていた私から、素早く田ノ中さんはメモを奪い取る。

田ノ中「......みつけちゃん、大丈夫かい?見た感じただの紙切れだけれど、何かあったのかな?」
みつけ「た、ただの?......でもさっきまではなかったです、こんなの。しかも、なんか......久しぶりって、どういうことなんでしょう」
田ノ中「久しぶり?久しぶりって?これに書かれていたのかい?」

田ノ中さんの言葉に驚いて、彼の手元を見やる。
なにも、書かれていない。
白紙だった。

田ノ中「......みつけちゃん。これはね、君が持っていた方がいいかもしれない。いや、本当はよくないんだけれど......本当に文章はあったんだね?うん、そうか。なら、その文章の主は俺には見られたくないのかもしれない。それかみつけちゃんに見せたいのかもしれない。どちらにせよこれはヒントだ。必要なものだ。嫌な気持ちになったろうし、恐ろしくなったろうけど、着いてきてくれるかい?君はさっきまではお手伝いさんだったけれど、ここに来てようやく存在理由ができてしまった。......とっくに、ここに来ることはわかっていたのかもしれないね」

田ノ中さんの長台詞もきちんと頭に入ってこない。
あったはずのものがなくなった、ただそれだけの事が酷く恐ろしい。
好奇心は猫を殺す。

田ノ中「......先に言っておくね、みつけちゃん。ここではね、殺人事件が起こったんだよ。それを俺は知っている。みつけちゃんは知っている?」
みつけ「え......」
田ノ中「騒音の犯人は分かっている。ここで殺された人がそうだ。その人が起こしたんだ。いいかい、よく聞いて。きっとここでは君が知りたくないことを知るだろう。それでも、知ること自体は悪くないんだよ。知って、それでどうするかなんだ。......さあいこう、ここは日が照っていて眩しいからね。ずっといると目が慣れにくくなってしまう」

殺人事件で殺された人が騒音を......。
いわゆるラップ音、というやつだろうか。
それは確かに田ノ中さん案件だ。
一周回って落ち着いてきたのか、脳はゆっくり回転をはじめる。
知りたくないことを知るって、どういうことなんだろう。
知って、それでどうするか......。
田ノ中さんはもう何か勘づいているんだろうか。

突如現れた不安を押さえつけるように、ポケットにいれた石をぎゅっと握り家のなかに入る。
ホラー映画のように、扉は閉まりやしなかった。
けれど、振り返ったその光景は化け物の口の中から見たそれのようで、どうしようもなく後戻りができないと思い知らされた。

田ノ中「ここの間取りは資料にあるよ。さあ、どこから見ていこうか?」

みつけ「そうですね...」

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