斜め上から目線

アウトプットが大切なんですって奥さん

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これまでのあらすじ
糸口探偵社で事務員バイトをしている照島みつけはひょんなことから胡散臭い探偵·田ノ中今真と共に空き家での奇妙な相談を聞くことに。七夕近くから一ヶ月近く続く謎の音。依頼人·伊沢凪の不安げな表情に、みつけは同情の念を覚えるのだった。

 

 

 

田ノ中「さて、伊沢さん。一通り話していただいたわけですが......率直に言いまして、かなり変な話ですね。ええわかります、ですから私のもとに来たんですよね?」
......?妙な言い方だな。
私のもと、なんてまるで田ノ中さん個人に宛てた依頼みたいだ。
伊沢「はい、その......本当に、いらっしゃるんですね。心霊現象限定の探偵さんって」
みつけ「え」

はぁっ!?

田ノ中「まあよく存在やら人格やら神経やらを疑われていますがね。伊沢さんは疑いながらもここまで来られたのですから、有り難いことですね。そう思わないかいみつけちゃん?ね、そうしたら俺もきちんと応対するんだよ。ハハ、何事も半信半疑でいれば、都合よく生きていられますからね」
みつけ「いやいやいやいや......えっ!?何!?し...心霊!?」
戸惑いのままに思わず叫ぶと、伊沢さんが意外そうに目を丸くする。
伊沢「えっ、あの......もしかして、知らないんですか?」
みつけ「そんなの勿論存じあ」
田ノ中「あっはっはっは、な~~~~に言ってるんだいみつけちゃん!」
突然大笑いした田ノ中さんは勢いのまま私の肩と組んでぐっと押し下げる。
田ノ中「......中野堂さんの限定水まんじゅう!」

伊沢「......あの......」
みつけ「存じ上げておりますとも」
田ノ中「その通りでございますとも」

 

田ノ中「......では、話の区切りもついたところで行きましょうか、問題の館へ」
みつけ「今からですか?その、私こういうのはわからないんですけど許可とか要らないんですか?」
田ノ中「時は金なりというんだ!それに許可ならとっくの昔に取っているんだよ。忘れたかい?それとも知らなかった?」
失礼な人だ。
伊沢「あの、私はどうすれば」
すっくと立ち上がった田ノ中さんを見上げ、伊沢さんは震えながら後に続こうとした。
田ノ中「ああいえいえ、外は暑いですからね。伊沢さんは心地よいこの応接間でゆっくりなさっていてください。流石に依頼人を現場に連れていくことはできないのですよね......とは言うものの現場の隣がご自宅なのですから、捜査していれば嫌でも耳に入ってきてしまいます。なので今帰宅していただくのは困るのですよ。ええもう、こちらの都合で申し訳ありません。ですがここには本もありますし、ネットカフェ気分でいかがでしょうか。一階の受付嬢に言えば大抵のものは用意されますよ。みつけちゃん、出るとき流石さんにジュースとかお菓子とか頼んでおくんだよ?」
伊沢「あ......え......は、はあ......」
一気に捲し立てられた伊沢さんは、内容もきちんと噛み砕けないままその場に居座ることを余儀なくされてしまった。
なんなんだこの人は。

田ノ中「ところでみつけちゃん」
みつけ「はい、なんですか?」
田ノ中「今日は何日だっけ?」

......なんなんだこの人は。
みつけ「8月10日でしょう?」
半目でなげやりに答えると、田ノ中さんは静かに肩を竦めた。
田ノ中「そうかい


──屋敷前──

みつけ「う......うわ、いかにもって感じですね......」
屋敷は荒廃しきっており、煉瓦造りの塀は土まみれ、門の隙間からはよくわからない草が延びている。おそらく中庭だったであろう場所はもはや草原だ。奥の屋敷には当然ながら明かりひとつなく、暑い夏の昼下がりとは思えないほどの陰鬱なオーラを放っている。
ほんとに行くの、これ。
田ノ中「みつけちゃん、さっき渡したものは捨てていないかい?」
みつけ「ああ...これですか?」

(所持品:透き通った石が追加されました)

田ノ中「そうそうそれ。絶対に離しちゃあいけないよ。」
みつけ「なんなんですかこれ?ルーペ......ではないですよね。ガラス?」
田ノ中「硝子よりいいものだよ。これから行くところは恐いからね。みつけちゃんは初めてだろう、気休めだとは思うけれどお守りくらいはと思ってね」
そうだった!
今からいくのは幽霊......がでるかもしれない空き家でこの人は心霊現象限定の探偵なんだった!
いやというか!
みつけ「心霊現象限定の探偵ってなんですか!!!!」
田ノ中「そのままだようるさいな~。俺はね、ギフトを売っているんだよ。心ある霊とお喋りができるし、仲良くできる。だから探偵社に来た胡散臭い依頼を本物か偽物か判別して、本物だけを引き受けているのさ。我をなくしたやつなんて、生きていようが死んでいようが意志疎通不可能だけれどね!」
ギフト。お喋りができる。本物の胡散臭い依頼。
だめだ、頭が混乱してきた。一度に捲し立てられると本当に何をいってるかさっぱりわからない。
みつけ「というかそもそも幽霊っているもんなんですか......」
そうぼやくと田ノ中さんは目を剥いて大爆笑し、それはもう完璧な笑顔で言い放った。
田ノ中「いないと困る!」
みつけ「私も困ります......」

 

田ノ中「いやあ、散々な状態だとは聞いていたけれど、酷い荒れ具合だねえ!警察は捜査のとき現場を保存しなきゃいけないんだっけ?こんなに荒れちまってたら見つかるものも見つからないよ。保存するなら伸ばすなよ。そう思わないか......うわ俺今なんか踏んだ?」
みつけ「こればっかりは田ノ中さんに同意です......門までの道も雑草だらけじゃないですか!ああ虫いる絶対......」
ぎゃーぎゃー言いながらなんとか屋敷の扉にまで辿り着く。
扉の鍵はかかっていないようで、軋む音を上げながらも思ったよりは軽い感触で開かれていった。
さて......

 

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